高度自給自足時代の夜明け 【先進国の未来像】 【緊急記事 米金融崩壊 フォークロージャーゲート疑惑】
現在米国では、金融機関や住宅ローン企業による「不正な住宅差し押さえに関する疑惑」がメディアを席巻している。
この疑惑は、「フォークロージャーゲート疑惑」と呼ばれている。
「フォークロージャー」は、英語で「住宅など担保差し押さえ」を意味している。
「ウォーターゲート事件」にならうようなネーミングが付けられていることから、この疑惑がどれほどのインパクトを持っているのか容易に察することが出来るだろう。
この「フォークロージャーゲート疑惑」で一番の問題となっているのは、「偽造文書などを用いた不正な手続き」が行われ、「居住者が知らないうちに住宅が差し押さえられてしまう」と言う点である。
金融界のこうしたやり方に対して、「全米の州司法当局」は迅速な動きを見せた。
「50州の司法長官」が、この「フォークロージャーゲート疑惑に対する合同捜査を開始する」と発表したのである。
銀行側が進めている差し押さえ手続きに対して、厳しい姿勢で調査に臨むとのことである。
「中間選挙を控えている議員達」も、有権者の支持を得るべく「フォークロージャーゲート疑惑の追求」に熱心であり、「疑惑追及のための公聴会」の準備を進めている。
一方で、あっという間に包囲網形成されてしまった金融界側は「偽造文書など存在しないの一点張り」で強行突破を図ろうとしている。
しかし、早くも「バンクオブアメリカ」は全米で「住宅差し押さえ手続きの凍結」に踏み切っており、金融界の防衛網は綻びを見せ始めているようだ。
「フォークロージャーゲート疑惑」は金融界のロビー活動もむなしく、ヒートアップする一方である。
このまま事態が進行すれば、「米国の住宅市場が機能不全に陥り、住宅価格の下落に追い打ちをかける可能性」も出てくるだろう。
もしその可能性が現実となった場合、「住宅市場を発端とする、連鎖的かつ世界的な市場暴落の新たなる引き金」となるだろう。
田中宇の国際ニュース解説 会員版(田中宇プラス)2010年10月22日
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★米金融を壊すフォークロージャー危機
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米国で「フォークロージャー危機」もしくは「フォークロージャー・ゲート」
と呼ばれる金融事件が始まっている。フォークロージャーは米国の不動産業界
の用語で「抵当処分」「担保権の行使」を意味する。一般には、土地を担保に
金を借りた人や企業が借金(ローン)を返せなくなった(返済遅延を起こした)
とき、貸し手(銀行など)が裁判所の手続きを経て、担保物件を差し押さえて
借り手から取り上げ、競売にかけて売却し、貸し手はその売上金で債権を穴埋め
する。穴埋めしきれない分は貸し手の損失(不良債権)となる。
これが担保権行使の基本なのだが、米国は不動産登記のシステムに欠陥があ
る。日本では、各地の法務局が保管する不動産登記簿に記載された所有者が、
その土地の所有者である。登記簿の記載が間違っていることはほとんどない。
土地の所有者や抵当権者が誰であるかを、事実上、政府が保証している。一方、
米国も各地に州立の登記所があるが、登記を受け付けるだけだ。登記所は、
登記された土地の所有者や抵当権者が本物かどうか保証しない。このため以前
の米国では、登記を信用して行われた土地の売買の後に、売り手が土地の所有
者でなかったことがわかり、買い手が大損する詐欺や所有権争いの事件が多発
した。買い手は、詐欺による損失を防ぐため、登記が間違っていた場合に保険
金が支払われる権原保険(title insurance)をかける必要があった。
Title insurance vital if you bought a foreclosed home
信用不良者と一緒に家を購入する方法
この問題を解決するため、住宅ローンなど不動産担保融資を行う米金融界が
資金を出して、1995年に「抵当電子登録システム」(MERS、Mortgage
Electronic Registration Systems)が作られた。MERSは、融資の担保に
なった土地の所有者や抵当権者をデータベース化したもので、全米で合計
6600万件、米国で組まれたローンの60%が登記されている。
Foreclosure Crisis Triggers Debate on Role of Mortgage Registry
MERSが作られた背景には、90年代に入って本格化した米国の金融自由
化(債券化)によって、債権者である銀行が、無数の住宅ローンの債権を束ね
て債券化し、不動産担保債券(MBS)として投資家に売ることが許されたこ
とがある。銀行は、この債券化ビジネスで大儲けできるので住宅ローンの融資
が急増し、各地の登記所での登記が追いつかず作業遅延がひどくなった。
MERS From Wikipedia
MERSは、全米各州の登記所に取って代わり、米国で最も信用される土地
登記システムとなった。ファニーメイやフレディマックといった米政府傘下の
住宅金融機関(住宅ローンの債務保証会社)も、債務保証を行う際、対象物件
がMERSに登録されていることを条件にしている。銀行界が融資するローン
の正当性を保障する登記システムを、銀行界が出資して作った私企業が運営し
ている状況なので、政府が金融を監督する構図から逸脱したが、これは90年
代の米国で流行した「民営化」「市場原理主義」の一例として容認され、むし
ろ民営化によって行政コストを下げる仕組みとして奨励された。
Invasion of the Robot Home Snatchers
▼ひも付けが切れた債券
95年にMERSが設立されて以来、MERSを使った債券(MBS、ジャ
ンク債)の発行が急拡大した。債券金融の総残高は、従来型の預金金融の総残
高を超えて増加した。債券金融は「影の銀行システム」(shadow banking system)
として、米経済の資金調達や株価の上昇、企業倒産の減少、景気の維持に不可欠
な存在となった。債券こそ金融の中心で、預金集めは儲からない古くさい分野
になり下がった。
影の銀行システムの行方
しかし住宅ローンの債券化には、根本的な問題があった。何万軒分もの住宅
ローンを束ねた後「トレンチ(溝)」と呼ばれる格付けに流し込まれて再分割
された債券は、どの家のローン債権(抵当権)がどの債券とひも付けされてい
るかわからなくなった。住宅価格が上昇している05年ぐらいまで、返済不能
になるローンが少ない間は、それを誰も気にしなかった。しかし、住宅相場が
下落し始め、07年にサブプライム住宅ローン危機が起こると、このひも付け
不能性が問題になりだした。
何万軒分もの住宅ローンを一つずつ精査し、ローンを返せそうもない債務者
の分から順番に並べることができれば、格付けによって輪切りにされた各トレ
ンチの債券と、担保にとった物件とをひも付けできた。だが、90年代からの
金融バブルの大忙しの大儲けの中で、悠長な調査をする余裕が金融界になかっ
たし、精査などしなくても債券がどんどん売れた。債券のトレンチごとの条件
の違いは「ローン全体のうちの破綻率が7%以下なら最下位トレンチの債券が
元本割れし、7−10%なら下から二番目のトレンチまで元本割れし・・・」
という具合に、全体的な比率の問題として処理された。ひも付けの考え方は消
えていた。
住宅の検索を依頼するもの
ローンの返済が滞って破綻になると、担保権を行使して担保物件の住宅を差
し押さえ、競売にかけて債権の何割かを回収する抵当処分(フォークロージャ
ー)の手続きに入る。この際、債券(債権)と住宅(抵当)が、あらかじめひ
も付けされている必要がある。原理的には、最初にローン破綻した物件を、最
も格下のトレンチの債券とひも付けしていけば良いのだが、これだと後付けの
作業になる。最初の起債の段階でひも付けが行われていることが必要だが、す
でに書いたように、それは行われていない。
A Primer On The Foreclosure Crisis
MERSのシステムは、ローン破綻後に行われたひも付け作業を、起債時に
行われたように銀行が装うことを黙認することで、この問題を解決した。これ
は違法なことだったが、当初は問題にならなかった。抵当処分は本来、裁判所
を通して行う手続きだが、米国では経済自由化の結果、MERS上で債権債務
関係が証明できれば、債権者である銀行が、裁判所を通さずMERSのシステ
ム上で抵当処分の手続きを行えるようになっていた。すべてが業界のシステム
であるMERS内で処理されていたので、07年夏にサブプライム住宅ローン
危機が起こり、抵当処分が増加した後も、債務者による反訴という形で違法性
が指摘されることは少なかった。
▼崩壊に瀕する米国の抵当システム
だがその後、住宅相場の下落が止まらず、抵当処分が増え続ける中、今年9
月末、裁判所がMERSの後付けのひも付けを無効とする判決を出した。これ
を機にフォークロージャー危機が起こり、いったんMERS上で決定された抵
当処分でも、後から債務者(ローン支払い者)が裁判所に提訴すれば、その処
分を無効にできる道が開かれた。7つの州の捜査当局が、銀行界やMERSの
やり方に違法性がなかったかどうか調べ始め、今や全米50州のすべての州当
局が何らかの調査を開始している。
Why the foreclosure mess could last for years
抵当処分を申請できるのは、抵当権者(債権者)だけであるが、住宅ローン
債権は債券化され、もともとの債権者である銀行から他の投資家に転売されて
いる。銀行は抵当権を持っておらず、抵当処分を申請する権限がない。しかし
米国の各大手銀行は「抵当権者は自分たちである」という宣誓書(affidavit)
を偽造して裁判所に提出していたことが、各州当局の調査によって判明した。
宣誓書には、専門家による監査を受けた証明書をつけねばならないが、銀行
は、専門家でない一般の人々を専門家として雇い、監査をせずに証明書に署名
させていた。この署名問題(robo-signing)も、銀行のスキャンダルとして報
じられ始めた。これらの全体が、フォークロージャー・ゲートである。
Foreclosure Fraud: 6 Things You Need To Know About The Crisis That Could Potentially Rip The U.S. Economy To Shreds
現在、米国で売買されている住宅の25%が、抵当処分された物件だ。カリ
フォルニアなど州によっては売買住宅の4割以上が抵当物件だ。今回の問題の
顕在化によって、抵当処分が事後的に裁判所で無効と判決されるケースが増え、
抵当物件の住宅を買った人々が、あとで購入を無効とされてしまうかもしれ
ない事態となっている。これでは、恐くて抵当物件の住宅を購入できない。権
原保険をかけることが再び奨励されているが、住宅の売れゆきが悪化しそうだ。
Title insurance vital if you bought a foreclosed home
半面、ローン返済が滞り、銀行から抵当処分をかけられている債務者は、う
まく裁判をすれば債務不存在の判決を勝ち取れる状況になっている。抵当権を
めぐる米国のシステムが根本的に崩壊し始めている。銀行やMERSが不正を
行っているという批判や債務者からの反訴が急増しそうな中、このまま抵当処
分を続けることができないと判断した銀行界は、10月に入り、バンカメや
JPモルガンが、自主的に抵当処分の申請を当分見合わせることを相次いで
決定した。
2010 United States foreclosure crisis From Wikipedia
▼不動産担保債券の全体がインチキ商品?
抵当処分は、住宅の競売(もしくはショートセールの安値売り)が必要で、
買い叩かれて住宅相場を引き下げる効果を持つ。銀行界が抵当処分を自主的に
停止したので、金融危機再燃の引き金を引きそうな米国の住宅相場の下落が止
まるという見方もできる。だが、もっと巨視的に見ると、一時的にではなく構
造的に住宅相場が下げ止まるには、むしろどんどん競売が行われて相場が続落
し、安値感が出て人々が住宅を買いたくなる値段になって需要が復活すること
が必要だ。抵当処分の自主的な停止は、米住宅市場復活の根本的な解決策を先
延ばししているにすぎない。抵当処分が再開されると、延命していた分の揺れ
返し的な急落が起きる。
Bank Balance Sheets 'Full of Rotten Stuff': Jim Rogers
しかも、今回のフォークロージャー・ゲートによって、不動産担保債券(MBS)
に「債権と抵当のひも付けが起債時に行われていない」という構造的な
欠陥(違法性)があることが広く露呈し、MBSは債券の設計そのものに欠陥
がある不良品なのだから、起債した銀行界が買い戻すべきだ、と欧米の機関投
資家が言い出す流れになっている。MBSを起債した銀行の元担当者が、自分
たちが設計した債券の安全性について理解していなかったと告白する内部告発
も出てきた。
Whistleblower Speaks On Fraudclosure
特にバンカメについては、一つの住宅ローン債権が複数の債券(MBS)の
担保として重複して利用されているケースも暴露され始めている。これが事実
なら金融犯罪だ。バンカメは近年の金融危機の過程で、カントリーワイドなど
住宅ローン専門金融機関を買収したが、それらの債権の中に犯罪的なものが混
じっているようだ。バンカメはすでに、投資家から合計470億ドル分のMBS
の払い戻しを要求されている。
Guest Post: Mortgages Were Pledged to Multiple Buyers at the Same Time
US investors pressure Bank of America
爆弾案件はシティグループにもある。シティが起債したローン債券のうち、
06年分の60%、07年分の80%が、当初から不十分な価値の担保しかつ
いていない不良品だったと報じられている。シティは今後、これらの不良商品
の払い戻しを投資家に請求されるだろう。
80% of Citi Mortgages Defective
「ローン債券化」のビジネスモデル自体が巨大な「ねずみ講」だったのだとい
う指摘も発せられている。MBSはリスクの大小で債券をいくつもの格付けに
分割する「トレンチ」の概念を使ってジャンク債を最優良債券に見せかけるイ
ンチキ商品だとも指摘されている。
FORECLOSUREGATE By Ellen Brown
銀行は、ローン債務者から債務不存在を主張され、債券購入した投資家から
は不良品だから買い戻してくれと言われ、州当局からは抵当処分の合法性を疑
われて捜査され、四面楚歌になっている。米銀行界は来年にかけて、巨額損失
を抱えかねない危機に見舞われそうだ。債券金融システムは総額20兆ドルで、
その何分の一かを買い戻しさせられただけで、米国の大銀行のいくつかが吹き
飛びかねない。
Wall Street, White House Blame Homeowners in Foreclosure Crisis
MBSを起債した米大手銀行は、債券のリスクの元となる住宅ローン債務者
の信用性(完済できる確率)について、何も調べなかったわけではない。各銀
行は、クレイトン・ホールディングスという調査会社に、債務者の信用性のサ
ンプリング調査を個別に依頼し、完済できる確率が意外と低いことを起債時に
把握していた。だが各銀行は、この調査結果を債券の買い手となった投資家に
知らせず、結果的に投資家は債券の下落で大損した。最近になって投資家たち
は、この件を告知義務違反と主張し、銀行を相手に損害賠償を起こす構えを見
せている。この件は抵当処分と関係ないので、フォークロージャー・ゲートと
は別件だが、銀行にとって巨大なリスクになっていきそうだ。
The enormous mortgage-bond scandal
▼大した話でないとうそぶくマスコミ
米国の住宅ローンと不動産担保債券(MBS)が抱えるこれらの問題は、
07年夏にサブプライム住宅ローン危機が起きる前後から指摘されていた。
しかし、銀行界の世論操作の影響下にある米国の主要マスコミでは、これらの
問題を、ごく一部の状況下で起きた限定的かつ技術的な問題として報じる傾向
が強かった。「サブプライムという、もともとリスクの高い、全体のごく一部の
住宅ローンの分野が問題を起こしているだけだ」という報道も多かった。しかし、
サブプライム問題は、不動産担保融資や債券市場全体の問題へとふくらんで
いき、08年秋の決定的なリーマンブラザース倒産、そして最近のドル崩壊過
程へとつながり、世界不況と米経済覇権の衰退を引き起こしている。
▼住宅ローン債券の抵当権を使えない金融機関
今また、米国のマスコミでは「フォークロージャー危機は、ごく一部のロー
ンをめぐる手続き上の間違いでしかなく、金融界にとっての損失は限定的だ」
という報道が目立つ。しかし、これはおそらく、サブプライムの時と同じ手口
の歪曲報道である。「大したことない」とうそぶく懲りない報道がある一方で、
FT紙は「フォークロージャー危機は、オバマ政権の最大の課題となりつつ
ある」と書いている。
Sorry Folks, The Put-Back Apocalypse Ain't Gonna Happen
Foreclosure crisis tops Obama agenda
今回のフォークロージャー・ゲートは「住宅市場におけるエンロン事件だ」
と言われている。エンロン事件は、2001年に米国で起きた、エネルギー市
場の自由化の過程を崩壊させた不正経理スキャンダルだ。エンロンは、電力ガ
スを電力会社などの企業が売買できる民間のスポット市場を運営する会社で、
米国の経済自由化・民営化の象徴として一時もてはやされていたが、不正な仕
掛けが暴露されて潰れた。同時に、米国エネルギー市場の自由化もそれで終わ
った。
Will Bankers go to Jail for Foreclosure-gate?
フォークロージャー・ゲートも、エンロン事件と同様、経済自由化によって
作られて高成長した米国の市場原理システムを、システムごと破壊しかねない。
今の米経済は、消費や生産という実体経済が回復しないまま、債券金融(影の
銀行システム)が債券発行によって作り続ける巨額資金が、株式などの金融
市場をうるおし、株価などの経済指標を実態より良く見せることで、あたかも
米経済が回復しているかのような幻想を人々に振りまいている。債券金融のシ
ステムが壊れると、米経済は破綻した「地の部分」が見えてしまう。
Junk Bonds Are Back on Top
フォークロージャー・ゲートは、まさにこの債券金融システムの崩壊を引き
起こしかねない。このシステムは16兆ドルの規模を持ち、既存の預金金融シ
ステム(13兆ドル規模)より大きい。それが崩壊したら、米連銀が始めそう
な自滅的な量的緩和の再開(QE2)と相まって、米国の金融とドルと国債が
破綻に向かい、世界経済にも大変な悪影響をもたらし、米国覇権の中枢に位置
する「ニューヨーク資本家層」の破綻に結びつく。この危機がどこまで発展す
るかわからないが、私にとっては、すでに最重要の国際ニュース案件となって
いる。
◆影の銀行システムの行方
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