今年の夏の2大イベントといえば、映画「崖の上のポニョ」と「北京オリンピック」だろう。

車での外出を控えたい昨今、どちらも手軽に楽しめる格好のイベントだ。そうであれば、ただ漫然と観るだけではいかにももったいないと思う。そこで、この夏の2大イベントを何倍にも面白くする観点を探ってみた。

つい先日、宮崎駿監督の劇場版アニメ「崖の上のポニョ」が、押井守監督の「スカイ・クロラ」、北野武監督の最新作「アキレスと亀」が第65回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に選出されたことが明らかになった。日本の劇場版アニメが同映画祭のコンペティション部門に選ばれるのは初めてのことらしい。

巷では、夏休みを利用した親子連れが「崖の上のポニョ」を我先にと足を運ぶ中、先日はじめて「となりのトトロ」を観る機会を得た。宮崎駿作品を語るだけ彼の作品を観てきた訳ではないが、トトロこそが宮崎駿監督の代表作だと妄信していたので、素直な気持ちでじっくり鑑賞してみた。見終わった後の最初のインスピレーションは意外にも「宗教」に共通するものだった。直観的に感じたことだが、ストーリー全体の中で展開される更に小さなストーリーが観る者の心に何かを問いかけていると感じたからだ。

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「何故、自分は生きるのか、そして何故死ぬのか？」。人は自分が生きて死ぬかぎり、何らかの形でこの問いかけを行うはずだ。人が地球に生まれて言葉を持ち、自分の存在を自覚して以来の問いかけである。この素朴かつ決して避けられない問いに答えるものが宗教である。日本人の多くは宗教には疎い。キリスト教やイスラム教の信者のように強い信仰を持っている者は少ない。唯一神が宇宙を創造し、喜びも悲しみも神によって与えられているなどと多くの日本人は思わない。しかし、何かを信じる「心」は持ち合わせている。

「となりのトトロ」の中に展開される小さなストーリーには「どこか素朴で避けられない問いかけ」がちりばめられている。ごく当たり前の生活の中の出来事に喜怒哀楽を纏わせた小さなストーリー群に対し、映画全体の大きなストーリーが「生きる意味とは何か」に答えている。

そこに「宗教」との共通点を見出すことができる。宮崎駿監督自身は決して宗教的価値観に従った訳ではないだろう。日本人が大切にしてきた心を表現してきたに違いない。人間の素朴な問いかけに答えようとする心こそが宮崎駿監督の作品の本質ではないだろうか。

「崖の上のポニョ」にも、どこか素朴で避けられない問いかけが随所にあるはずだ。その問いかけから何かを掴みストーリー全体の答えを探るのがこの映画の楽しみ方だ。奥底に秘めた意外な自己意識に目覚めるかもしれない。宮崎アニメは哲学的に鑑賞することで何倍も楽しく観ることができる。

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一方、世界中の人々がスポーツに注目する時がやってきた。普段スポーツに関心の無い人も、何故かオリンピックは見入ってしまうものだ。特に、世界記録を狙うスーパースターの存在は観る者を魅了してやまない。スーパースターがいる競技を観戦することは理屈抜きで面白い。スーパースターとは「次元の違う戦いの場を自らつくる者」だと思っている。

先日、イチローが日米通算3,000本安打を達成した。ＮＨＫの番組「プロフェッショナル」に出演した時にイチローが言っていた言葉が印象的だ。「フィールドに立つ自分は違う自分になれる」そう言って憚らない姿があった。その裏側には信じられないようなひた向きな努力が隠されている。天才と称されるスポーツ選手ほどルーティーンを重視するというが、彼が自宅で食べる昼食は決まってカレーライス。来る日も来る日も毎日カレーライスなのだ。毎日同じ味、同じ量、同じ食べ方だ。本当に徹底している。自分に厳しく、決めた事を貫く姿は凡人にはとても真似できない。イチローを天才という者が多いが、人の想像を超えた「努力の化身」と言うべきだ。

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プロゴルフ界のスーパースターと言えば、言わずと知れたタイガー・ウッズだ。彼はゴルフをアスリートスポーツへと変えてきた男である。まさに心・技・体の全てが整った最高のアスリートだ。現在、彼は怪我の治療に専念するためにシーズンを離脱している。しかし、離脱直前の試合には怪我をおして出場した。その試合は4大メジャー大会の全米オープンだった。最終日の最終ラウンドのパットを沈めてプレイオフに持ち込んだ。まさに自ら最高の舞台をつくりだした。そして、翌日のプレイオフでも、サドンデスにまで持ち込んだ上で、とうとう逆転勝利を遂げた。またもや次元の違う戦いをやってのけた彼こそ、真のスーパースターだと言える。数年前、彼のインタビュー記事のコメントに「何かに秀でた人間は、そのことだけで尊敬に値する。そのためにどれだけ犠牲を払ってきたかを私は知っている」とあった。スーパースターの存在が並外れた努力の上に成り立っている事をこのコメントからも知ることができる。

ところが、私たちスポーツ観戦者は彼らの努力の部分を見ている訳ではない。スーパースターがつくりだす「あり得ない逆転劇、数々の名場面、エキサイティングなスーパープレイ」に魅了され、一喜一憂しているにすぎない。そこで、オリンピックの観戦の仕方を少し変えてみようと思う。スーパースターが繰り出す名場面は「スーパースターが無意識のうちに自らつくり出しているもの」として観戦するのだ。きっと面白い見方ができるはずだ。事実、スーパープレイの数々は「野球の神様が、ゴルフの神様が微笑んだ」と喩えられるではないか。努力という犠牲を払ってきた者にのみスポーツの神様は微笑む。スーパープレイは神様の仕業なのかもしれない。確かに敗者となった対戦相手は"Oh my god ! "と叫んでいる。

北京オリンピックまであと1週間。北島康介の努力は、早くも世界新記録の達成で報われた様だが、オリンピックには魔物がいるという。その魔物を押し退けるために、北島康介には水泳の神様がついていてることを願いたい。彼自身が「努力の化身」であれば、本人も知らぬ間に最高の舞台が用意されるはずだ。そういった視点から200ｍ平泳ぎをじっくり観戦しよう。そして、北島康介に限らずオリンピック観戦は選手の一挙手一投足を見てほしい。次元の違う戦いの場を作っている存在感を持つ選手はどこにいるのか？そんな見方で楽しむことをお勧めしたい。

オリンピックは、各競技の神様が誰に微笑もうとしているのかを探しながら観戦するのが面白い。

最後に、「崖の上のポニョ」はＣＧを一切使わずに作られたアニメ映画だ。完成までには、気の遠くなるような制作へのひたむきな努力があったことだろう。そう考えると、宮崎駿監督作品には映画の神様が宿っているに違いない。第65回ベネチア国際映画祭には期待が持てそうだ。

アーリーバード